ネリヤ☆カナヤ4thアルバム「HALKANA」収録
「びわの木のうた」にまつわる物語

「お父さんのビワの木」
それは、父と母がまだ元気で大きな家に住んでいた頃のこと。おみやげにもらった徳之島産のビワが大きくてとてもおいしかったのだそうです。父は「これはいい」とまるごと一個を食べもせずに鉢に植えました。母は「面白いことするね、お父さん」と笑っていたそうですが、父が水をやり大事に育てるうちに本当に芽がでてきたのを見てびっくり。
「ほらお母さん、言った通りだろ?」
そう自慢げに言って父はたいそう喜んだそうです。

それから小さなアパートに移ることになり、しばらくして足を悪くした父は寝たきりになってしまいました。母はアパートの、ベッドで寝ている父から見える窓の下に、少し大きくなったビワの鉢から土に植え直しました。

そして時が立ち、母が顔を輝かせて言いました。
「ほら、お父さん。ビワの木、緑の葉っぱがついて大きくなってるよ。見える?もっと大きくなるはずだよ」
なんと窓から少し見えるほどにビワの木が大きくなっていました。父は首を伸ばしそれを観ると「おお、凄いね」と満面の笑みを浮かべて喜びました。

ビワの木は少しづつ大きく成長し緑の葉をたくさんつけ父がベッドの上を見るとすぐに見えるほどになりました。
「お父さん、凄いよ。ビワの木。窓から見えるぐらいまた大きくなってるよ。きっとそのうち実もなるね。それまでに元気になろうね」
ベッドの父は笑顔でうなずき、二人は生きる望みを託すように何度もビワの木を話題にしたのだそうです。

しかし残念ながら、父はそのビワの実がなるのを見届けることができずに2004年9月24日に逝ってしまいました。

母からこの話を聞いたのは今年2005年に入って4月にわたしが結婚式を挙げるために島に帰った時、そしてその結婚式も無事に終わった後のことでした。

母が話を続けました。
「でもね、今ようやくそのビワの木に黄色い実がなったんだよ」
ぼくはびっくりして
「凄いね!どこ?」
窓を見ると、母を見守るように葉っぱがたくさんついた大きなビワの木があり、窓辺まで見に行くと少しこぶりだけど、たしかに黄色いビワの実がなっていました。
「へえ、嬉しいね。お父さんが観れなかったのは残念だけど、でもお父さんはお母さんのためにプレゼントしてくれたみたいだね」
父が種を植え、母が育てたビワの木。わたしは母の促すままにその実をちぎって台所に行き洗って皮も剥き、ほおばってみました。
「小さいけど甘くておいしいよ。さすがお父さん」
とぼくはうっとうめくと母がびっくり。口からプッと3つの種を吐き出すと母が笑いました。その笑顔に、思わずわたしは頭に閃いた言葉を口に出していました。
「この種を東京に持っていって植えても成長するのかな?」
母がいたずらっぽく言いました。
「そうだね、持っていってごらんよ」

東京に戻ったボクは鉢と土を買い、小さな3つの種を植えました。奥さんと二人でなるべく太陽にあて水をやり土を耕しました。が、なかなか芽が出ずに東京の天気は、空梅雨で雨が少なくくもりがち。夏が始まった頃、珍しく東京には台風も上陸。わたしも土を耕しながらも諦め加減。母にも電話で「ダメかも…」と。

ところが植えてから3ヶ月後の8月5日…
窓からみる鉢に異変が。緑の小さなものがポツっと。「ゴミじゃないよな」と近くに寄って観てみると、思わず笑みがこぼれました。なんと3つのうちの2つが芽を出していたのです。
「あぁ、お父さんからの少し早い誕生日プレゼントだな」
わたしの誕生日はこの月の21日。空を仰いでわたしは感謝しました。

父と母が二人で力をあわせて大きくしたビワの木。その種が2つの芽として受け継がれたのです。父が逝って1年が立とうとしています。大きく大きく育ちますように、一生懸命育てようと思います。

P.S
2008年7月現在。すでに背丈80cm近くになり大きくなり葉をつけて元気に育っています。

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